サキュバスの晩餐

sakyunの日記

紙に書かれた名前を見た時にぎょっとした

温厚そうな奥様がサインして差し出した紙の上に踊る文字をみて、私の名前ではないか?と目を疑った。
ちがう ちがう!私の氏名ではない。
同名ではあるが、同姓ではない、というか、いいや、かつての同姓同名...うーん、言いにくいけど去年まで結婚していた時の苗字と同じだった。

離婚後 結婚時の姓を 戸籍を抜いたあとも使い続けることも選べたけれど、わたしは 子供のときからの姓に戻した。社会生活上は名義変更事務が増えて忙しくなるのはデメリットではあるのだが 人生の中のひとつの区切りのけじめとして 旧姓を選んだ。
いまでも病院の窓口で 結婚時の姓をよばれると自分が呼ばれたような気がしてつい反射的に椅子から腰が3ミリ浮いてしまう。気持ちそわそわする。

目の前にいる わたしと同じ年頃な同姓同名もどきさんの顔をちらりと見て、すぐにサインに目を落とした。
「はい、受けたまわりました。お渡しは...」と マニュアル通りの台詞が自分の口をついて淡々と流れだしているのに、声がわたしのものではないのように感じて、意識がどこかにさまよいでそうになる。

ここにいるわたしは現実ではなく架空の想像の産物で 彼女が実は本物の自分だったりしないのだろうか...どこかで入れ替わったりしないのだろうか...やたらいそがしくておかしな夢をみたなぁと思いながら目覚めて起きるでしょ。そしたら、明るくて暖かい部屋で、居間からテレビをみている家族の笑い声がきこえてきて... て、そんなわけないなぁ