カチカチ山のたぬきさん
寒い朝だった。
体が温まらないと飛べないハエのように身動きができなかった。
エアコンから吹くぬるい風は夜に冷え切った室内の空気に溶け込み
たちどころにぬくもりを失ってしまった。
引っ張り出してきた電気ストーブの前にぼんやりと私は座り込んでいた。
オレンジに光るそれを見つめるだけで目玉が温かくなるような気がした。
そのうち 何かが焦げる匂いがしてきた。
誰かが私のために料理をしてくれているわけではない。
それにこの匂いは料理ではなくビニールが溶ける時の?
そこで ハッと見返ると 今着ているビンテージなユニクロダウンコートが
怪しい焦げ臭を発しながらまさに溶け出しているではないですか。
慌てて電気ストーブから離れて溶けた箇所にそっと触れると
パリパリと容易く裂けて中綿が出た。
幾度もの冬を共に過ごしてきたコート。
寒い冬の季節、軽くて暖かく、無難なデザイン、まるで体の一部のようで、
どのコートよりもヘビロテしてきたユニクロダウンが溶けてしまった!
裂け目からは、次々とダウンが吐き出され、気がつくと部屋のそこかしこに
白いふわふわが雪のように散らばっている。
もはやこのコートと共に過ごすことはできない。裂け目をセロハンテープで
抑えても、触れる端からパリパリと裂け、テープは剥がれてしまう。
こうして別れは突然に訪れるのだ切ないことだと思いながら
電気ストーブはよく気をつけて温まろうという教訓でした。