恋人達のいる焼肉屋の風景
次々と運ばれてくるテラテラと輝くみずみずしいお肉を
焼き網の上に乗せて語り合う恋人達のいる焼肉屋のカウンター席。
たんぱく質の焦げる匂いは、燃える恋心の象徴であるかのごとく悶々と白く立ちのぼり、銀色の箸づかいの可憐な娘さんの唇は官能的に肉をついばむ。食べるのもそこそこに彼女を喜ばせようと次々と華やかなトークを繰り出す青年の一生懸命さが微笑ましい。
その若い恋人達と椅子一つ空けた横の席で 枯れた年頃の老人と、地味なご婦人が静かに並んで座っていた。ビールを一口、次にキムチ、ビールを一口、次にハラミ。何かの厳粛なシステムのように規則正しいリズムで食事をしていた。
不意にご婦人が正面を向いたまま言う。
「つまり私たちは終わりなのね。」
老人は答える。
「ああそうだ、君がどうしても僕の望みをきいてくれないからね。性の不一致さ。」
やれやれという仕草でご婦人は首を軽く振り、ビールをお代わりする。
「どうしても”後ろ”じゃなきゃダメなの?”前”は無理なの?」
と、ご婦人は少し咎めるような調子で言う。
老人は口を尖がらせ駄々っ子のように…
「だってどうしても俺は元々そうなんだもの仕方ないじゃないか!」
いささか声が大きくて辺りに響きわたった。
若い恋人たちは高齢カップルの生臭い話に耳を奪われ言葉も食欲も失い押黙る。
血の気を失った肉は網の上で縮み黒く小さくブスブスと炭になりかけていた。